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日本の保険制度では、全ての国民が健康保険に加入しています。重病や大怪我、あるいは高度な先進医療でも比較的安価で誰もが治療を受けることができます。そのため、国民の健康にとって保険治療は必要不可欠な制度であり、世界に誇れる素晴らしい制度です。
ですが、歯科治療に限って言えば、治療内容は決められた通りに、決められた順序で行うことが厳格に要求されてしまいます。私は歯科医師になって、殆どの歯科医師の先生方が保険診療の許される範囲内で、患者さんのために最大限の努力をしていることを初めて知りました。そういった私も、以前は1日に30人前後の患者さんの治療を保険診療の下で行なっていました。しかしながら、この制度の下では、ゆっくりと患者さんの話を聞き、知識と技術を駆使して、歯科医学的に必要と診断される、あらゆる治療を時間をかけて全て尽くすというわけにはいきません。
また、歯科治療は歯を削ったり、歯茎を切ったりする切除治療、いわゆる外科治療です。外科医が1日30件の処置を行う事は可能でしょうか。残念ながら、保険診療では採算性、治療法・材料の制限があり、患者さんのお悩みやご希望を十分に聞いた上で処置を行うことは、体力的・精神的・時間的にも不可能であることは想像に難くないと思われます。
医療にとって最も大切なこと、最も優先すべきこと、それは患者さんの健康と利益を第一に考えることではないでしょうか。そして、その目標に向かって知識と経験、技術と機材で何ができるのかを充分に検討して話し合い、誠実に実行することだと私は考えます。歯科医師とはセラミックの歯やインプラントを売る職業ではなく、それらを数ある治療法の一部と認識し、担当した患者さんにはどの治療法が適切かを真剣に考え提案する職業です。私は自由診療での「時間」や「費用」は、そういった自分がしてもらいたいことを患者さんに提供するためのものであると考えています。『成人でも適切なメインテナンスプログラムで97.7%の歯が守れる』『咀嚼機能が健康寿命に影響を与える』という報告が示す通り、”口腔内の健康”にそれだけの価値があると確信しています。